2026-03-31
境界知能に向いてる仕事|10回以上転職した弟の全記録
はじめに
弟は仕事を10回以上転職しています。
「境界知能の人に向いてる仕事」を検索すると、就労支援事業所やクリニックの記事が出てきます。「単純作業が向いています」「マルチタスクは苦手です」。
間違ってはいないものの、それだけでは足りません。実際に10回以上転職した弟の記録を書きます。
弟の仕事歴
支援学校を中退した後、母親の伝手で地元のコンビニや旅館でアルバイトを始めました。
どれも1ヶ月もてばいい方でした。同じテーマを当事者目線で書いた記事として仕事が続かない|境界知能の弟が転職10回した記録もあります。
その後、家を出て県内の別の街に移りました。そこからは自力で仕事を探しては辞めての繰り返しです。
一番最悪だったのは、反社関連の会社でした。暴力を振るわれて辞めることになりました。この件はニュースにもなりました。
弟のように判断力が弱い人は、悪い大人に利用されやすいです。仕事を選ぶ力が弱いから、とにかく「入れるところ」に入ってしまいます。
ちなみに、一緒に履歴書を書いたことがあります。弟の経歴を並べていったら壮大な転職歴になって、兄弟で笑いながら作りました。笑い事ではないのかもしれませんが、こういう場面があるのもリアルなところです。
弟が経験した仕事は幅広く、コンビニ、旅館、漁師、建設関係まで色々でした。家を出て自力で仕事を探すようになってから、最終的には土木・建設系の仕事が増えていきました。一人で黙々と体を動かす仕事が、結果的に合っていたのかもしれません。
なぜ仕事が続かなかったか
弟を見ていて感じた「続かない理由」は3つです。
1. 仕事の内容が理解できない
指示が複雑だと分かりません。メモを取る習慣もありません。同じミスを繰り返して怒られます。
ここで一冊紹介したい本があります。「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治著)。当事者の特性がリアルに描かれています。怒られるのが嫌だから理解しているフリをします。結果、同じミスを繰り返します。また怒られます。この悪循環が続きます。弟に当てはめると、まさにこの状況でした。
2. ストレスのコントロールができない
仕事ができないストレスが溜まると、暴力やものに当たる形で爆発していました。実家にいた頃は母親に暴力を振るい、妹のピアノを壊しました。
3. 「辞める」以外の選択肢を知らない
困った時に「相談する」という選択肢が弟にはありませんでした。嫌になったら辞める。それしかありませんでした。
最近は落ち着いてきた
10回以上転職した弟ですが、最近はやっと落ち着いてきました。
何が変わったのか、正直よく分かりません。年齢とともに少し落ち着いたのか、自分に合った環境をやっと見つけたのか。
“支援を足しすぎて疲れた”と感じたら。約30年分を1冊にまとめた有料ガイドがあります。
ガイドを見るただ一つ思うのは、「転職を繰り返すこと自体は悪いことではなかった」ということです。弟は転職を繰り返す中で、自分に何ができて何ができないかを身をもって学んでいきました。
向いてる仕事を探す前に — 働く意志があるか
弟を見て思うのは、「どんな仕事が向いているか」を考える前に、もっと手前で確認すべきことがあるということです。それは「本人に働く意志があるか」。
「これをやってみたい」という気持ちがあるなら、それを大いに尊重してあげてほしい。周りから見て向いていなさそうでも、本人の「やりたい」は自尊心の土台になります。
逆に、働く意志がまったく見えないこともあります。そういう時、親が全部お膳立てしても本人は動きません。弟も、家にいる限りは動きませんでした。本人の内側から「働こう」という気持ちが出てくるように促すこと——これが一番難しく、一番大事なところでした。
合う環境・合わない環境
仕事そのもの以上に、「誰と働くか」「どんな環境か」が、続くかどうかを左右しました。
弟に合わなかったのは、たとえば性格のきつい"お局様"タイプがいる職場。ちょっとしたミスを強く責められると、弟は萎縮して続きませんでした。
逆に、弟のハンディを理解した上で接してくれる人がいる職場では、本人が傷つかずに済みました。「できないこと」を責めるのではなく、前提として分かってくれている。それだけで弟は安心して働けました。
気をつけたいのは、一般常識から外れた人と深く関わってしまうケース。判断力が弱いぶん、悪い大人に利用されやすい。「入れるところ」に入ってしまうからこそ、関わる人を選ぶ視点が必要でした。
「向いてる仕事」は人によって違う
「境界知能の人には単純作業が向いている」。確かにそうかもしれません。ただ弟はコミュニケーション能力が高く、人に好かれる。単純作業よりも、人と関わる仕事の方が合っている可能性もあります。
IQだけで「向いてる仕事」は決まりません。弟の場合、勉強はできないけど社会性はあります。そういう個別の特性を見ないと、「向いてる仕事」は分かりません。
そもそも、誰にとっても「これが向いてる仕事」という万能の正解は存在しません。最終的に「向いているかどうか」を決められるのは、本人だけです。親や周りが「これが向いてる」と決めても、本人がしっくりこなければ続きません。弟も、転職を繰り返す中で自分で「これなら続けられる」を見つけていきました。
親にできること
弟の経験から、親にできることを挙げるなら2つです。
1つ目は、甘やかさないこと。
全面的にサポートし続けると、いつまでも自分で動かなくなります。「子供部屋おじさん」になってしまう懸念があります。弟の場合、家を出されたことが結果的に自立のきっかけになりました(成人後の経緯は境界知能の成人後の暮らし|自立・年金・親亡き後のリアル)。
2つ目は、陰でサポートすること。
甘やかさないとはいえ、完全に放置すると自立は難しい。母親は表向きは突き放しながら、裏では位置情報アプリで安全を確認し、療育手帳や障害年金の手続きを進めていました。兄の私も、母親だけがコミュニケーションルートだと弟が甘えるので、一旦私が受け皿になる形を取っています。
この「甘やかさないが陰でサポートする」のバランスは難しい。そのためにも、まず親はお子さんの傾向をしっかり把握することが重要です。どんな場面で困るのか、何が得意なのか、どういう環境なら続くのか。そして長く付き合うための相談相手や協力者を早い段階で見つけること。
結局、親のゴールは「向いてる仕事を見つけてあげること」そのものではありません。本人が大人社会の中で、できるだけ自分を消耗させずに生きていけるようにすること。どの仕事に就くかより、「どうスムーズに社会に適応していくか」。その視点で本人の特性を一緒に整理していくことが、遠回りに見えて一番の近道でした。
私たちが作っている「ヨゾラ」は、相談を重ねるほどお子さんの傾向が蓄積され、その子に合った仕事選びや対応策が見えてくるツールです。親が一人で全部を判断しなくてもいい仕組みとして、使ってもらえたらと思います。
きょうだい児が書いた有料ガイド
グレーゾーンの子と家族の歩き方
約30年の実体験と、公的制度の現実を1冊に。
“支援を足しすぎて疲れた”親御さんへ。
リリース記念価格・PDF約28ページ・購入後すぐダウンロード
コメント
ヨゾラ
きょうだい児が家族と一緒に作っているサービスです。生きづらさを感じている人に、その人に合った答えを届けます。